ゲームレビュー「はじまりの森」(SFC/任天堂)
はじまりの森
この作品に出会えたことを私は感謝する。
良いゲームとかそういうことではなく、(いや、良いゲームなんだよ?!)表現するということにおいて、制約なんてないのだと気づかせてくれたのがこの作品なのである。
…作品、そう、もはや一つのゲームソフトではなく立派な芸術作品である。
大抵の人はこの作品をプレイどころか名前すら聞いたことないと言うだろう。…当然だ。なにせニンテンドーパワーの書き換え専用ソフトなのだから。ローソンで開始されたこのサービス、覚えている人はいるだろうか?
専用のメモリカセットをローソンにあるロッピーの挿入箇所に差し込んで、かつてのディスクシステムのように様々なソフトへ書き換えできるというものだ。既にサービスは終了しているが、今もロッピーにはメモリカセットを差し込む挿入口は確認できる。書き換え可能なタイトルはそのほとんどが既に発売されているタイトルの復刻やリメイクばかりだが、中には書き換え専用のオリジナルタイトルが存在する。「はじまりの森」もその中の一つである。
ジャンルはオーソドックスなコマンド選択式アドベンチャー。かつてディスクシステムで発売された「ふぁみこん昔話 鬼が島」や「ファミコン探偵倶楽部」を想像してもらえればどんなゲームなのかは説明できてしまうのだが、そこは天下の任天堂、ここに来て単なるアドベンチャーだけで終わるはずがない。所々ミニゲームのようにアクションやパズル的な要素も盛り込まれているので、だれることなく進めるようになっている。
もっとも、一番の魅力はそんな些細なことではない。この「はじまりの森」はサブタイトルに「ファミコン文庫」とつけられているのだが、まさにその通り、プレイ中は一冊の文庫を読んでいるような感覚に陥る。それくらい開発者達はこの作品を丁寧に作りこんでくれた。
物語は夏休みを利用して田舎に遊びに来た少年が、どこか不思議な雰囲気を持った少女と出会ったところから動き出すのだ。言ってしまえば、ジュブナイル物だろうか、少年少女が物語を通して成長していくさまをプレイヤーは読者として見守っていく形である。
とにかく、少年と少女の小さな恋の物語とでもいうか、書いていて恥ずかしいが、少年期のそういう甘酸っぱく、見ていて微笑ましいやりとりが心に響く。そして、時にそういう情感に訴えかけるシーンを開発者達は効果的に演出してくれるから素晴らしい。
少女と再会した時に、彼女から「何故自分を探していたの?」と問われた際は勇気を出して、「ただ君に会いたかったから」と告白(?)する少年。その後に「見る」というコマンドが現れるが、これを選択すると少年の視点からの映像となり、画面には微笑む少女のアップ現れ、「…ちょっと照れるのだ…。」という少年の独白が聞けたりする。ニクイ!ニクイねぇ!この演出!ついついニヤニヤしながらプレイしてしまう。
任天堂らしい温かく、柔らかなドット絵で書き込まれたキャラクターもこの作品の雰囲気にピッタリで、小首をかしげたり、並んで歩きながら会話する際はしっかり相手の方に顔を向けながら歩く、といったようにこれまた細かく作られているからたまらない。
そして、先ほど触れたように要所要所で少年の目を通した映像が映し出されることがある。自分の先を歩く少女のうなじや、怪我をした自分の膝を手当するために、視線を落とした顔などがアップで表示されたりすると破壊力抜群だ。下手な萌え絵よりドキッとしてしまう。これは多分誰しもが子供の頃経験した、異性を意識しだした時のような感覚だろう。プレイしていくと、まるで子供時代に戻ったかのような懐かしい感覚に陥ってしまう。
懐かしい感覚はこれだけではない。おじいちゃんのスクーターに乗せてもらったり、地元の子供達とメンコ遊びで対決したり、かくれんぼをしたり、時にはお手伝いでうなぎのつかみ取りをしたりと、少年の一日一日は全てが新鮮で冒険に満ち溢れている。後半になると物語は急展開を見せ、文字通り本当の大冒険が少年を待っている。
見るもの全てが新鮮だった、刺激的で開放的な夏休み。それをこの作品は絵と文字と音で蘇らせてくれる。
…そう、音だ。この作品を構成する要素で欠かせないものが音楽だ。どことなく懐かしい雰囲気を醸し出すBGMの出来は素晴らしく、SFC屈指の美しさだと私は断言する。特に終盤にかかる、少女が笛で演奏するメインテーマは鳥肌が立つくらい美しいのだ。笛の音色からシンクロして次第に重なる鈴の音色、どことなくもの悲しいような、それでいて心地よい、日本人の根底に存在している「和」に訴えかける旋律。本当にこの作品のサントラが出ていないのが残念である。プレイする機会に恵まれた者は心して聴くがよい!
コマンド選択式のアドベンチャーという形を取っている以上、コマンド総当りで話が進むため、多少だれる部分があるかもしれないが、とにかくエンディングまでしっかりプレイして欲しい。クライマックスには自然と人間のあり方に対する、多少説教めいた部分もあるかもしれないが、それは些細なこと。エンディング後は、あたかも一つの小説を読み終わったかのような心地よい読後感に包まれることだろう。SFCながら、その出来は現行機に全く引けをとらない、むしろ十分タメを張れるだろう。このような素晴らしき作品があまり人に知られることなく消えていくのはとても残念である。書き換えサービスが終了した今、この作品を入手することは非常に困難であるが、苦労してでもプレイする価値はあると思う。
見た目は子供向けだが、間違いなく大人になった人のための作品だと思う。
この「はじまりの森」には、かつて子供だった大人達の思い出が要所要所に散りばめられている。自分の中に眠っている、そんな「はじまりの森」をたまには懐かしがってみるのもいいだろう。あなたも少年と一緒に是非とも一夏の冒険を、再び体験してみてはいかがだろうか?
了
- [2007/03/06 22:07]
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Comments
書き換えしておけばよかったなあ
この作品の存在はしっていたものの、結局遊ばずじまいで…
書き換えが終わってしまったので、中古店を探すしかないですよね。あっても値段高そうですが。
こうした地味な良品は限られた形態で発売されることが結構あるような気がします。
そうした作品をちゃんと紹介できる人もまた必要なわけで、そうした点では
ビリーさんのこのレビューも意味のあるものですね。
ちなみに自分は以前ごろんたさんと秋葉原のフレンズに行った際にこのソフトを買ってましたw
ちなみに約5000円くらいしました。
書き換えサービス終了したから、そろそろ値段が上がるかもしれないので、買うなら今かもですよ!
自分の拙い文章でどの程度魅力が伝わるか不安ですが、名作なのは保障します。
つーか何なら貸します。それくらい多くの人に遊んでもらいたい作品です。
ゲームクエストはご存知ですか?
投稿型のゲームレビューサイトで、優秀なレビューを書いた人には
毎月ごとにゲームソフトを贈呈している珍しいサイトです。
ぜひ一度チャレンジしてみてください。
http://www.mainichi-msn.co.jp/entertainment/game/ ゲームクエスト
ありがとうございます。
果たして自分の拙い文章が通用するかいささか不安ですが、結構たくさんレビューも載ってるみたいなので、参考にさせていただきます。
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